【ノンストップ!】近ごろはやたらと「賛否両論」というけれど
フジテレビ系「ノンストップ!」で、「東京メトロ日比谷線車内のBGMに実験的にクラシックが流されていることに賛否両論」という話題で出演者があれこれ話しているのを見た妻が一言。
「『賛否両論』ってさ、じゃあ、賛否が分かれないテーマなんてあるのかね。このご時世、なんにだって文句というか、賛否は出てくるものなんじゃないの」
妻は先ほどから少々イライラしている様子。
そういえば最近、幼稚園児のきなこちゃんが言うことを聞かなくなった。
幼稚園から帰ってきた後の片付けはしなくなったし、大好きなミニトマトも食べなくなった。妻の疲れは相当たまってきているようだ。
夫はそんなことを考えながら、賛意を示してみた。
「その指摘は言い得て妙だね。新聞やテレビなんかでも、記者やリポーターがまちの声を聞いて『賛否両論です』みたいな報じられ方するけど、あれは報道機関として何も言っていないに等しいと言えば等しいよね。逆に軽々しく賛否を示されても困ることもあるんだけどさ」
妻はキッチンで洗い物をしながら、
「でしょ?『妊婦さんに席を譲る』とか、マタニティマークについてまで色んな意見があるし。一昔前なら何の気なしに言ってたような、『子どもは母親が一番好き』みたいな考え方に対しても、今は反対意見がたくさん出てくるよ。まあネット上で個人が色々言えるようになって、良いことなんだろうけど。」
「あ、ネットっていえば、年賀状に子どもの写真はNGっていうのも、ネットでよく見るから、何となく気をつけないといけないのかなって思うよね。今の世の中、どんなことだって、誰かが傷つくことが見えるし、どこかで迷惑になることが分かるんだよ。もはや賛否のないことなんてないんじゃない」
妻は夫の賛意を得られたことに満足はしているが、疲れからくるイライラは解消していないようだ。
夫は「君はポストモダンか」とほほえみつつ、別の提案をしてみた。「じゃあ、賛否に分かれないものを探してみようか」
妻はニヤリとして、すぐさま切り返す。「ないよ。そんなもの絶対ない!」
夫は思案顔で、ひとつ目の提案を披露した。「ボーナスあがって嫌がる人いないんじゃないかな」
妻は「こいつはアホか」というような表情で言った。「雇用されている人は嬉しくても、ボーナス出す方はボーナス出したくないでしょう。どこの会社もお金ないんじゃないの」
「身に覚えあり」と居たたまれなさを感じた夫は一呼吸置き、二つ目の提案。
「『暑い夏に爽やかな風が吹いてくること』、これだ!これに反対する人はいないでしょう!これが転じれば、扇風機の存在に反対の論陣を張る人はいないはずだ!」
歓喜する夫に対し、仏頂面だった妻が思わず噴き出した。「あんた、バッカじゃないの!アハハ、そういうのは違うんだよ…あー、バカみたい!」。さも呆れたというようにひとしきり笑った後、「あ、それ、ブログに書いてよ」と求めてきた。
妻に笑顔が戻ったことに喜ぶ夫はそのままパソコン机に向かった。
夫はキーボードを打ちながら考えていた。無音でテレビを見ていたので、地下鉄車内クラシックにどのような賛否があるのか、またそれについて出演者がどのような意見を交わしていたのか全く分からない。
なぜ無音なのか。
オーディオシステムで偶然にもクラシック音楽を聴いていたからだ。
バッハ「無伴奏チェロ組曲」。
TBSドラマ「カルテット」でも取り上げられた曲で、満島ひかり演じる世吹すずめが途中で弾くのをやめた曲としても一部で話題になった。
クラシックは歌詞がないためか、聞き手の想像力を掻き立てる。
東京メトロはどのような曲を流しているのだろうか。
バナナマン設楽さんや山崎パンさんはどんなコメントをしたのだろうか。
想像力が及ばず、夫はテレビに視線を戻した。
コーナーが変わり、V6坂本さんが箱根で自然薯を食べているのを、左下の子画面の中で設楽さんが見ていた。